こんにちは、人形の秀月 十七代目です。
奈良県奈良市のY様よりお雛様の冠の修理を承りました。

Y様はホームページ内の人形の修理・リメイクをご覧になり、「2〇年前のお雛様ですが、冠が傾いて天冠が載らなくなってしまって・・・」とご相談いただきました。
これはよくいただくご相談で、昔の天冠は作りも良く重たいので、どうしても何度も載せたり降ろしたりしていると冠がグラグラしてきてしまいます。

冠だけならまだ良いのですが、落ちた瞬間にお顔に傷が・・・という事例が非常に多かった為、一時期から女雛の横に置いてお飾りする様にと、載せ台が付く様になりました。
それともう一つの要因として、下記の写真の様に防虫剤を被せるタイプのものです。

これが要因と思われる破損等も非常に多いのですが、写真はY様が送られてきた時の実際のお写真ですが、冠が当たって重みが集中している事がお分かりいただけると思います。
この状態で箱にしまう時に、何処かが引っ張られtてしまうとまともに冠の先に力が集中してしまい、場合によってはグラグラになってしまったり、根元から折れてしまう事が実際にああります。
さらに、翌年箱から出してこの防虫剤を外そうとするときに、ちょうど冠の所が先端になりますので、そこを摘まんで引っ張ってしまう事が多く、その時に一緒に冠を抜いてしまうという事も。
効果のある防虫剤かとは思いますが、プロの目からするとこのタイプの物はあまりお勧めできないなと。
よほど力が一点に集中しない様に綺麗に包んで、そのままの状態で箱の中に納めていただければ良いのですが・・・
それともう一つ、こちらのタイプの防虫剤は布?に薬剤が染み込ませてありますので、触ると手が少しベタベタとします。
人体には影響は無いと思いますが、その少しベタベタした手で他のお人形のお顔を包もうと触ってしまうと、そのベタベタがお顔に付いてシミなどの恐れがありますので、注意が必要です。
私も実際、このタイプの防虫剤が使われている時には、一回一回手を洗いますので。
さてY様のお雛様ですが、確認させていただくとやはり根元から折れてしまっていました。
冠は頭に中に差して取り付けてありあますので、その中の芯棒が曲がってしまったり折れてしまったりすると冠の交換となってしまいます。
その時に、当時の冠があれば良いのですが、既に廃盤になっている事も多く、その場合は似た様な形や大きさの冠にさせていただいておりますので。
「簡単に直るだろう」とボンド等で留めて接着できなくなって持ち込まれる方もいらっしゃいますが、逆に髪の毛までもグシャグシャになってしまい、挙句に中の芯棒が取れなくなってしまっていると、修繕に時間とお金がかかってしまうので絶対にお客様自身での修理はお止めください。
そうした場合は、綺麗に修繕できない事もありますので、修繕をお断りさせていただく場合もございますので。
そして、修繕か完了したお顔がこちら。

表情も晴れやかになりました。
やはり、お雛様も直してもらうと嬉しいんですね。

それにしても、20年以上前のお雛様とはいえとても美しいお顔で、衣裳も素晴らしいです。
現在では、こうしたお顔は好まれないのかご存知ないのか分かりませんが、プロから見ても「いいお顔だな・・・」と間違いなく思えるお顔ですので、いかに当時のお雛様は質が良い物はとことん良い物だったという事が分かりますね。

そのまま広告等にも使用する事ができる程のお顔です。
冠が綺麗になった事で、その輝きが増して更によい表情となりました。
こうしてご覧いただくと、この子の様に少しふくよかなお顔の方が幸多きお顔として、個人的には好きですね。
私も含め、この当時のお雛様をご存知の方は現在でも多くいらっしゃり、本当の意味での「良いお雛様・良いお顔」というのをご存知なので、そうしたお雛様を探しておいでの方もご来店されます。
お店側が、こうした昔の良い部分を知っててお飾りをアレンジする事と、知らないでただいじくり回すのとでは全く異なりますので・・・伝統とはそういうものです。
Y様この度は、誠にありがとうございました。
とても立派なお雛様ですので、どうぞこれからも末長くお飾りくださいね。
お人形の修理・リメイクにつきましては、過去の事例も掲載されておりますので、こちらよりご覧ください。
こちらの以前のブログからは、さらに膨大な気合の入った修理例をご覧いただけます。
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