こんにちは、人形の秀月 十七代目です。
とある老舗人形店様のご依頼で、小さな徳川家康公の兜の試作です。

最近では、お雛様や五月人形も小さくなってきている地域もありますが、制作する側から申し上げると小さくとも手間は同じで、逆に小さい方が仕事が難しくなるという事が多いんです。
実は、何でも小さければ良いのいうもではなく、バランスの良い大きさというものがあって、その大きさは今も昔も関係なく選ばれる方は多いですね。
小さいから安価だとか、場所を取らないだとか、実際に小さいからと極端に安く扱われていたり、ネットショップも含め、その程度の説明ができない様なお店であれば、そういう作りの物と思っていただき、聞いても先はありませんから見るだけでスルーされる方が賢明でしょう。
名の通っている職人さん・メーカーの作品であれば、そうした売り方はまずされておりませんので。
写真は、徳川家康公の歯朶之葉(しだのは)の前立て。
手の平に納まるくらいの大きさ。
素材はアンチモニーといって、鉛や錫を混ぜた合金で適切に処理をし、昔からオルゴールや装飾品などの伝統工芸品に使用されております。
そこに純金鍍金を施したもの。
獅噛(しかみ)と上の輪の艶のある部分と、歯朶之葉(しだのは)の艶の無い部分とで分かれておりますが、これは一部磨き金といって艶のある部分は専門の職人さんがバフで徹底的に磨き上げます。
この前立ても安価な物ですとプラスチックであったりして、パッと見は分からないかもしれませんが、よく見比べていただくとアンチモニー製は見た目にもゴツゴツとして「あじ」があり、プラスチック製は綺麗ですが通常の金の塗装で純金の色とは全く異なります。
これは最近話題の純金製品の金の色と、そうでない塗装の金のいろを見比べていただくと一目瞭然ですので。

「部品が良ければいいのか」というとそういう問題ではなく、それらを使いこなしバランスを取って丁寧に仕上げる事が大切です。
お子様・お孫様にとっては初めてのお祝いの品でもありますし、御守りでもある訳ですから。
写真は途中まで仕上げていたのですが、兜鉢と錣(しころ)の大きさと前立ての大きさが気持ち合わず、ひとりで絶句しながら全部バラシて創り直す前の状態。
よくあるんです。
大変ですが、でもそれも楽しくて。

そして、こちらが再度部品を変えて組み上げた徳川家康公の兜。
左奥には、お客様から修理依頼の官女がチラリと。

「何が違うの?」と思われるかもしれませんが、兜鉢を合せ鉢として少し大きくし、目庇(まびさし)を少し小さくして・・・と、パッと見では分からないかもしれませんが、バランスが整うと座りもよくなるものです。
手のひらサイズの兜で秀5号(各作家やメーカーにより同じ5という数字でも大きさは異なり、これは秀月の5号ということで秀5号)という大きさですが、小さくとも存在感は大きくなる様にと。

吹き返しと錣(しころ)が一体となった共錣(ともじころ)を使用し、小さくとも立派な三段錣です。
ここから仕上げでさらに整えていくのですが、ビシッと整うと気持ちの良いものです。
こちらの秀5号の兜は、当ショールームでも他に伊達政宗公や楠木正成といった兜をご案内させていただきます。
こうして一本一本工房にて黙々と手作業で制作している訳ですが、やたら安価であったり作者不明の某国製であったりと「価格の違いは品質の違い」と思っていただければまず間違いありません。
試作の場合は、取ったり外したりの連続ですので、一本仕上げる頃には手がパンパンになってグーが出来なくなりますが、これも毎年の事。
さて次は、このひとつ上の大きさの兜に取り掛かり、同時進行で開店の準備も。
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人形師・甲冑師 十七代目 人形の秀月