こんにちは、人形の秀月 十七代目です。
お雛様といえば、女雛が主役になりますが実は男雛も綺麗なんです。

秀月の男雛・女雛共に昔から綺麗なお顔とご評判いただいており、お召し物も上質な素材や柄を厳選し仕上げ着せ付けてありますので、押しの強いお飾りとは異なり品良く佇む様にと仕上げられております。
お顔だけが良くてもお人形は良くはなりませんので、お顔と胴体のバランスや、お召し物とのバランス等、どれか一つが秀でるのではなく、トータルバランスで美しくなる様にと。
何気ない秀月のお顔に見えますが、実はお化粧云々・・・などと手を入れてあり、お召し物に着せられている事無く自然に収まり、私たちと同じ様に見る角度で表情が変わったりもします。
こちらの殿のお召し物は、簡単に申し上げると美しい紺地に華やかな桜の刺繍が施され、若殿を感じさせるとともに、若さ故に若干どこか可愛らしさもあるように。
同じ紺でも深みのある紺で、さらに紺糸で刺繍が施されておりますので、光の加減により立体的な華やかさも持たせてあります。
腕の位置や曲がり方、お召し物の角の立たせ方等、いかにも振り付けていますという感じは持たせず、より自然体である事が大事で、あまり力を入れ過ぎて振り付けているとご覧になる方も疲れてしまうんです。
ここが年の功がでる所で、若い頃はやたら勢いに任せ腕を曲げたり、お召し物の角に目打ちを入れ立たせたりもするのですが、年もこなれてくるとより自然にスッと落ち着くんですね。
これは明らかな差がでるところです。
そしてお召し物に直線のラインを多く持たせ、ピッとした緊張感も少し持たせてあります。
お顔の向きや冠や嬰(えい)に至るまで、しっかりと角度やバランス等を取り仕上げておりますので、写真を撮る時には何処からでも様になる訳です。
これは、結婚式の前撮り等をされた方であれば、その意味がよくお分かりいただけるかと。
あとは表情を引き出していくだけ。

例えば、同じお顔でも角度を変えればこれだけの表情が出てきます。
目の表情も出て、より生き生きとした表情に見えると思いますが・・・
こうしたポイントも作り出し、見つけてあげる事も私の努めです。
これは、私自身が婚礼写真の仕事に従事しておりましたので、大好きなんですね。
新婦さんの表情を引き出しながら、清楚な白無垢や豪華な打掛、美しいウエディングドレスや色鮮やかなカクテルドレスで、いかに綺麗に撮るか・・・スタジオの仲間達と1.000組以上の婚礼写真に携わりましたが、すべてが勉強になっています。
後ろの背景がお人形の邪魔をしない様にすることが大切で、ここで大柄の強い模様を持ってくるとお人形に勝ってしまい、どちらが主役なのか分からなくなってしまう訳です。
しかし、お客様からするとお飾りで一番最初に目に入るのが屏風である為、屏風が派手であったりするとパッと見で「凄い!」となってしまうのですが、ひと呼吸落ち着いてからお飾りをよく見ると・・・「あれ?そうでもないな」となる訳です。
俗にいう「ハッタリ」と同じで、人間というのは高さが高かったり、場所が広かったり、数が多かったりすると、それだけで圧倒されてしまい「何か分からないけど凄い」と感じてしまい、ひと呼吸落ち着いてから良く見ていくと、細部まで見える様になりますから「あれ?そうでもないな」と気付いてくるんですね。
写真の屏風は、ぼかしの入った落ち着いた金屏風に桜が咲く春の御所の庭が描かれております。
決して派手やかではありませんが、お人形が引き立っているのがお分かりいただけるかと。
お花は控えめに、かつ上品な紅白梅。
灯りは、優しく照らす行燈(あんどん)に舞桜の模様。
もちろん、殿と姫は畳に座っておりますが、御所の庭が見える様に低い台で調整し、背景とお人形のバランスを取り、お飾りとして調和が取れる様にと仕上げられております。
これが、老舗人形専門店の技の一つ。
すると、中には「あれとこれを乗せ換えてみたい」というお客様が時折いらっしゃいますが、結果的に100%元のお飾りに戻ります。
これもお客様の手を煩わせる事無くお人形(お飾り)をお選びいただきたいという、老舗人形専門店の昔からの心遣いなんです。
きちんとバランスが取られておりますので、安心してお選びいただける様に。
よくお顔を交換できますという店もありますが、それはそこのお店のやり方なのでとやかく言うつもりもありませんが、お人形の胴は藁や木で出来ていて、お顔を差すところは特に藁で出来ています。
そこに何度も差したり抜いたりすれば、その藁が広がり締まりが無くなって、お顔がグラグラになってしまうんです。
お召し物もあちらこちら触れば型が崩れたりしますしので。
こうした事も知った上で、いろいろなお店をご覧になられると、「このお店は違うな」「ここお店の店員は素人だな」といった事も見えてきますから。
さて、オープンまでもうしばらく時間がありますが、この子達の表情をもっともっと引き出してあげられる様にと、ひとつひとつお飾りを仕上げていきます。
婚礼衣裳の仕事や婚礼写真の仕事にも従事していたという、ちょっと異色の職歴を持つ十七代目。
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江戸時代初期から創業400年
人形師・甲冑師 十七代目 人形の秀月