こんにちは、人形の秀月 十七代目です。
私の制作した徳川家康公の兜が、海を渡りザルツブルグのマルクス=ハプスブルク=ロートリンゲン大公の元へと嫁ぎました。
シシーとフランツ=ヨーゼフが出会い、その後も夏の離宮として愛したカイザーヴィラで、そこに今住まわれるマルクス=ハプスブルク=ロートリンゲン大公。
大公は、エリザベートとフランツ=ヨーゼフの曾孫であり、エリザベートが唯一自ら育てたマリー=ヴァレリーの孫に当たるお方です。
お城の中は豪華で、美しいだけでなく、エリザベートの書斎、フランツ=ヨーゼフが食堂に通った秘密の通路など、人間らしいお2人がまだそこに息づいている場所。
ここにご家族一家がお住まいですが、お城の一部を子供のための音楽学校にされていたり、コンサートをされたりと、いまは市民に開かれたお城だそうで。
大公殿下は、とても知的な方で一族の歴史はもちろん、英国やその他の王室のこと、日本の文化にも大変興味をもたれているという事で横浜市青葉区青葉台のアンティークス ヴィオレッタ オーナーの青山櫻さんに私の制作した徳川家康公の兜をお渡しいただきました。
写真は製作中のものですが、機内持ち込みでスーツケースに入る大きさという事で、当工房サイズで5号という大きさでなるべくコンパクトにしましたが創りは本格的で、ある意味日本を代表する訳ですから丹精込めて制作いたしました。
ここからは専門用語を使用しますが・・・兜鉢は、鉄片を一枚一枚矧ぎ合せた矧ぎ合せ鉢(合せ鉢)を使用し、ひとつひとつ星という金の金具を全体に植え、前後に銀の二方白という板を乗せ、その上に金の篠垂れという金具を乗せ、頂点には金の八万座で締めるという小さくとも本格的な創り。
小札(こざね)は金小札(きんこざね)とし、極細ピッチと呼ばれる極細の山の小札を使用し、威糸(おどしいと)も極細の糸を使用して赤と紺に耳糸に三色(さんしき)という糸を使用した昔ながらの威色(おどしいろ)。
目庇(まびさし)と吹き返しは、周りに緑のレザーを貼り、その内側を蛇腹糸(じゃばらいと)と金糸を貼って、外側は金の覆輪(ふくりん)を巻く豪華に映える創りです。
この覆輪(ふくりん)というのも、最近の兜では巻かれているものが少なく、先ずは覆輪を伸ばす作業から始まり覆う部分を挟んで、締める為に金槌で均等に叩いていきますので、熟練の技が無いとベコベコと不規則に凹んでしまい物にはならず、大変手間と時間と熟練度が必要とされ、材料自体だけでも相当のお金が掛かってきます。
そこに徳川家の葵の御紋を付け、最も目立つ前立てには家康公の象徴となる歯朶之葉(しだのは)の前立てを使用するのですが、今回はあえて木彫り金箔押の前立てを使用しました。
忍緒は、まだきちんと縛っていませんが基本となる赤とし、袱紗(ふくさ)は紺色の縮緬で波模様を入れてあります。
といった具合で、お創りさせていただきました。
日本の兜のプレゼントという事で、大公殿下も嬉しそうに箱を開けていただいております。
そして、徳川家康公の生い立ちや歴史、兜の制作方法や秀月の歴史や私が制作した事などをドイツ語で書かせていただき、熱心に読まれています。
多分、翻訳は間違っていないと思うのですが、兜や前立て、小札や錣(しころ)というのは日本独特の言葉ですので英語はもちろんですが、ドイツ語でも単語はありません。
なのでフロリダへ行った際にも、兜と言っても「ジャパニーズヘルメット」もしくは「ヘルメット」といった具合になってしまうので難しかったですね。
その痛い経験もありますので、慎重に分かりやすく初めてのドイツ語で・・・もしかすると、兜を制作するよりも時間が掛かったかもしれません・・・
その甲斐もあってか、大公殿下も大変お喜びになっていたそうで。
日本では「洋間に合うお飾り」といった宣伝文句をよく見かけますが、ザルツブルグの石造りのお城で洋間どころではない本物の歴史的建造物の中でも、媚びることなく日本の伝統的なお飾りの仕方で堂々とお飾りされ違和感なく立派に映え、私自身がこうして身をもって経験させていただいているので、洋間云々と言われていても美意識はブレないんですね。
こうして大公殿下の元に無事に渡り、大公殿下にも皆さんにもお喜びいただけ嬉しいかぎりで、一生懸命に取り組めば言葉は違えど想いは伝わるもので、これが「伝えたい日本の心 美しい伝統」です。
そして今回お渡しいただいたアンティークス ヴィオレッタ オーナーの青山櫻さんにも感謝するばかりです。
こうして海を渡り、遠くヨーロッパ ザルツブルグの地でも私の制作した秀月の兜が飾られるという事は、私自身や秀月にとってもそうですが、今までやこれから選ばれるお客様にとっても光栄な事だと思います。
ショールームではこれから徐々に五月人形が展示されていきますが、そんな私が制作しておりますので。
十七代目 人形の秀月は皆様のお越しを心よりお待ち申し上げます。
伝えたい日本の心 美しい伝統
人形師 甲冑師 十七代目 人形の秀月