こんにちは、人形の秀月 十七代目です。
浜松市中央区のU様より、三人官女のお顔の修理と複数のガラスケースの修理を承りました。
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ブログをご覧になりお問い合わせをいただいたU様ですが、お母様のお雛様だそうで約50年前のお人形です。
今見ても和風な綺麗なお顔で、作りもとても良く現在でも十分通用するお顔立ちですね。
倉庫にしまってあったという事ですが、お顔にシミひとつ無く、当時の丁寧な仕事がうかがえます。
鼻筋の所が少し欠けてしまっている事と、上唇の紅が欠ける様に取れそうになってしまっていました。
そして、ガラスケースに入ったお人形4本。
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これらも当時のままという事で、柱が取れてしまったり、お人形が外れてしまっていたりと、お人形の痛みもありますが、ガラスケースや取り付けの破損や外れといった具合です。
本来であれば一体ずつ詳しくお写真を載せるところですが、酷い状態を見られるお人形の気持ちを考えると、あまりお見せする気にはなりませんので。
さっそくガラスケース入りのお人形の修理です。
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作業台に並べてみましたが、柱は外れガラスも外れ、お人形も外れ付属品もポロポロと・・・
広げている段階から外れてしまっていきますので、全てに神経を集中せねばなりません。
それほど大きくはないのですが、とても丁寧な作りで、ガラスケースに至っては背面が鏡になっており、背中を見られても大丈夫な様にお人形もきちんと作り込まれております。
お顔は酷い汚れやシミも無く、とても綺麗な状態で驚きました。
ガラスケース入りのお人形の場合、背中部分は見えないから本来あるべき作りを省いている物が多いんです。
特にこれからの五月人形の兜や鎧等は、後ろは見えないからと大幅に手間を省いてある物が多くなりますので注意が必要です。
見えない部分だからと手を抜くのは素人の仕事で、見えない所だからこそキチンと仕事をしてあるのが職人の仕事ですから。
こちらのガラスケースの木枠もとても綺麗な作りで、釘はもちろんですがピン等といった金物類は一切使用しておらず、ガラスも微妙な遊びを持たせ割れにくくしてあるのも昔の腕の良い職人の仕事です。
そして、ケースの下部には螺鈿や象牙の様な飾りが取り付けられているのではなく、綺麗に段差無く埋め込まれているのも凄いところですね。
こういう仕事を見ると、今の様な機械や物の無い時代に、いかに腕の良い職人が手間を掛けて制作したのかが手に取って分かり勉強になるのはとても嬉しいものです。
こういう事は誰も教えてくれませんから。
かちらのガラスケースで唯一の問題になったのが、柱が一本紛失してしまっている事でした。
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この部分が無ければ柱は組み立てれません。
しかし、作りも特殊で・・・
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こういう仕上げになっていて
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この様にキシっと差し込んで組み立てる、本当に昔の作りで、今のガラスケースではまず見る事ができない作りですね。
これを電動工具ではなく、みの等といった道具で手作業で作っていく訳ですから、本当の職人技です。
なので、この部分だけは更に専門の職人仲間に制作を依頼しました。
その間に、お顔とそのほかのお人形の修理です、
お人形自体の着物の修繕や小道具の取り付けは母に任せ、私は毬や亀等といった物を直すのですが、「おが粉」を固めて作られているので糊を混ぜて成形し・・・といった具合に分業で取り掛かります。
母が修繕が終わると、今度は私がそのお人形を立てる訳ですが、針金等も使用しておらず本当に芯木を差すだけで立てられているので、床の穴を綺麗にして当時の膠(にかわ)を綺麗に取り除いて、芯木を差し込んで固定し、お着物の裾を固定し亀や岩、毬も固定しガラスケースに納まる様に調整して、ガラスと鏡を綺麗にしているうちに柱が出来上がってきます。
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綺麗に朱色(もともとの色に経年の風合いをした色)に塗装もしていただいて、取り付けて完成です。
そしてお顔の方は・・・
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綺麗に鼻筋も直り
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綺麗な三人官女に戻りました。
嬉しそうに喜んで見えますね。
それにしてもキリッとした綺麗なお顔で、現在では手に入らない古き良きお顔です。
こうして50年前の物といえど、それぞれの職人が力を合わせ修繕していき、全くの新品の様にはせず、当時の風合いや面影を残しながら仕上げていきますので。
実は、新作を創るよりも修繕の方が何倍も難しいんです。
そして納めさせていただくと大変喜ばれ、ご丁寧にお礼のメールまでもいただきました。
『お雛様を直して頂き、ありがとうございました。修復できなければ、人形供養に出そうかと考えていたほど、状態が悪かった人形が、とても綺麗になって戻ってきて、母も感動していました。兄に至っては、「新しい人形を買ってきたの?」と言って勘違いしたほどでした。
7段飾りの3人官女さんも、飾るたびに欠けた鼻が気になって心を痛めていましたが、とても綺麗になって戻ってきて、飾るのが楽しみです。
直すにあたり、携わっていただいた職人の皆様にもよろしくお伝えください。本当にありがとうございました。』
職人として、仕事冥利に尽きるお言葉ですね。
我々の様な職人は、決して表に出る訳でも無く、出たところで話題になる訳でも無く、時折テレビなどの取材の依頼もいただきましすが、放映されたところで視聴率が上がる訳でもありませんので知られない存在なんですね。
いわゆる影的な存在で、さらにその周りにもそれを支える影の存在となる職人さんがいる訳です。
これはどの職種でも同じですが、AI化やコンピューター化や最新の技術の機械だと大いに盛り上がりますが、日本の熟練の職人さんの腕に勝るものは無いと思うのですが。。。
日本の伝統や文化を守り伝えるのであれば、先ずはそれらを支える創り出す職人さん達を守るべきで、日本のそうした物は日本人の手で作り伝えられたいものです。
U様この度は、誠にありがとうございました。
どうぞこれからも末長くお飾りくださいね。
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