こんにちは、人形の秀月 十七代目です。
オーストリア ウィーンへと旅経つ兜を制作いたしました。

とある方が仕事でウィーンへ行くという事で、現地の伯爵への贈り物として私が制作いたしました。
伯爵お顔は拝見した事がある方なので、その方をイメージして。
基本的にスーツケースに納まる様にしたいので、かなりコンパクトな兜となりますが、性格上妥協はできないんですね。。。

大きさは、私たちは5号と呼ぶ大きさですが、これは各メーカー等で同じ5号でも仕様などにより大きさは変わりますのでご注意ください。
ちょうど兜鉢だけで手の平に乗る大きさですが、鉄板を一枚一枚矧ぎ合わせた合せ鉢を使用します。
頂点の八万座(はちまんざ)と呼ばれる金具は、美しい金鍍金が施され兜鉢の美しい黒とで双方が引き立ちますね。
ここの星と呼ばれる金具や金の覆輪を巻くと、さらに華やかになるのですが、あえてシンプルに渋く。
兜鉢の下の方に紺地に小桜文様が少し見えますが、これは兜の内張をした時に端を留める布で、小桜文様というのは開運招福、五穀豊穣、繁栄を願う縁起の良い伝統文様ですので、秀月でも昔から多用しております。
秀月では兜や鎧でも、こうした伝統模様を使用する事で、お子様にとっても縁起の良いお祝いの品となる様にと心が込められている訳です。
ただそれをあえて表に出さず、見えない所に使用するというのが職人の『粋』というものなんですね。
昔の実物の鎧や兜にも多用されておりますので、機会があればどういった所に使われているか、探してみるとよいかもしれません。

小札(こざね)は、極細の5ミリのも及ばない〇ミリピッチの山が連なり、小さいと言えどきちんと三段の錣(しころ)で、紺糸縅に耳糸を赤として見た目にも引き締めてあります。
この山が細かければ細かいほど山数が増え、同時に穴数も増えますので、それだけ編む(縅)数も増えますので、手数も糸も増え高価になる訳です。
この時に、大きさに関わらず三段の錣(しころ)が二段になっていたり、糸の太さも大きさに関係なく全て同じになっている鎧や兜は、編む(縅)手間を省いて、安価に仕上げてあると思って下さい(素掛威は除く)。
この細い縅が綺麗に仕上がり、自然に糸が伸びている光景はとても美しいものです。
この時に、正絹だ人絹だというセールストークをする店もあるかと思いますが、作り手からすると正絹でも質が悪く色が悪ければ単純に質は悪く高価なだけですので、逆に人絹の方が遥かに綺麗に美しく仕上がります。
以前、某国で作られている縅を見て、実際にそれを多用している兜等が市場に出回っている事も知っていますが・・・ご想像にお任せしますが、何故某国で作るかはメーカーの考え方ですので。
やはり、日本の伝統的な物は日本人の手で創りたいと思いますね。
正面に戻り、眉庇(まびさし)はあえて金を使用し細かい模様が刻み込まれており、そこに覆輪を巻いています。
鍬形は台輪・鍬形共に真鍮製で金鍍金を施し、コンパクトながらもウィーンで頑張って存在を大きく魅せる様にと、大鍬形に近い形状の鍬形を使用しました。
今回は龍頭を付けた場合、龍頭の方が大きくなってしまうので止めました。。。
忍び緒は、細身ながら多色の総角(あげまき)を使用し、袱紗(ふくさ)は秀月では定番の昔から最も高貴な色とされる紫(古代紫)を使用。
こうして完成した兜ですが、オーストリア ウィーンといえば伝統もあり美しい街で私も憧れますが、そこへ日本の兜が伯爵へ贈られる訳ですから日本の恥にならない様にと。
日本人らしく控えめながらも誇り高く、「この兜、只者ではないな」と思わせる様な日本の職人の心意気をと。
実際にこちらの兜を手にした時の伯爵の反応が楽しみです。
喜んでいただけたら良いな・・・と。
さて、下ではお客様がいらしている様ですので、ご案内へと向かいます。
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