こんにちは、人形の秀月 十七代目です。
ひと言にお雛様のお顔と言っても、様々なお顔、表情があります。
お顔の表情、お化粧、お着物の色柄等がキチッと合うと、写真のお顔の様に優しく嬉しそうな表情へと変化するんです。
本当に?と思われるかもしれませんが、実際に色々なお店をご覧いただくと分かりますが、お顔だけ良くてもどこかお顔だけが浮いている様な・・・、良いお顔だけれどなんだか生き生きしていなくて生気が感じられない様な・・・、良いお顔かもしれないけれどどこか幸が薄い様な・・・といった感じで、単なる物としか感じられない事があります。
中には、首がしっかり挿してなく異様に首が長く感じられたり、深く挿してあり過ぎる為にお顔が襟に埋まって肩が上がって見えてしまったりと、販売店も「お顔が決め手」とばかりに、そこだけに集中し「このお顔を付けていればどれでも売れる」と、バランスも何も関係なく、そのお顔のシリーズを大から小まで使用している所もあるほどです。
結果、どこのお店のCMやチラシなどを見てもみんな同じお顔という事があったりも。。。
老舗専門店となると、その辺りの事はしっかりわきまえているので、そういった事がありません。
そうしたお店には、しっかり代々家の者やプロが常駐していますので、自社のカラーもありそう簡単に流行に流される事も無く、ブレる事も無くしっかりとお飾りを仕上げてあります。
そうした事もプロの技で、値段で売るだけの量販店には真似の出来ない事で、これは私どもの様な全国にある老舗専門店と量販店とでは、そもそも商いの考え方のスタートが違いますので当然の事で、代々人形屋を家業とし生業とし好きな仕事で、反物選びから仕立て、はたまた膝と膝を突き合わせて職人さんの人柄選びまで、ひとつひとつ吟味しお飾りを仕上げていくのと、そういった事は関係なく、仕入れ値だけでとにかく安く仕入れて数を売る右から左へ流していくだけのとでは全く異なりますので、そこに価格の差も出てくる訳で、もちろん作りや素材も異なってきますので。
代替わりして、私と同年代の老舗専門店さんも多いのですが、皆さん先代にしぼられ学んで失敗しては再挑戦し、取引先の方には叱られ悔しい思いをしながら頑張ってきて今があり立派に店を張っておられ、独自のカラーを出して価格の安さを売りにすることはまずありませんので、安さや急かす売り方をするには何か理由があるからと思い、そうした事もお店選びの基準にされてもよろしいかと思います。
そもそも、そういう苦労され頑張ってこられている専門店さんは、自分が育て創り上げた大切なお人形やお飾りを意味も無く安売りし、お客様にも「売った」とか「売れた」という言い方はしませんから。
こういう時代だからこそ、間違いなくお人形選びの前にお店選びが重要になってきます。
さて、お顔の話しに戻って、美しいお顔であったり、上品なお顔であったり、可愛らしいお顔であったりお顔のタイプも様々です。
もちろん、好みというのもあるかと思いますが、共通しているのは私どもが見て「これはいいお顔」というのは、型であったり、塗りであったり、筆の入れ方であったり、結髪の仕方であったり、目の入れ方であったりと、ここでいう良いお顔というのは基礎の作りです。
そうやって創られているお顔は必ず表情が出てきますので、私はそれをいかに引き出すかという事をしていきます。
たとえば・・・
こちらの秀月のお顔として弊社の看板となっているお顔ですが、多くのお客様が「この写真の子のお顔が良くて・・・」とお探しに来られるのですが、この子のお顔は・・・
同じ子ですが、この様に様々な表情を引き出すことができます。
ちょっと幼くなってしまったのでお蔵入りとなった画像ですが、お着物も上のお写真と同じ鮫小紋で全く同じ高級お雛様です。
更にお着物を変えてお化粧も若干変えていくと・・・
これだけの違いが出ます。
基本となるお顔は全く同じなのですが、ほんの少しのお化粧等の違いでこれほどの差が出て、よくご覧いただくとお顔の色も同じ白でも違いがあるのがお分かりいただけるかと思います。
このお顔の場合、上のお着物と下のお着物を変えた場合、全く合わなくなってしまいます。
いわゆる、その子の為だけに創られているお顔で、良いお顔程個性も強くなりお顔がお着物(胴柄)を選ぶ様にもなってきて、合わせる事が非常にシビアになってくるのですが、その分決まった時は全くの隙も無く完璧に整いますので。
そして、京物のお人形となるとお顔も同じ様に・・・
キリッときつめの表情のお顔で揃え、こちらのお顔だけで通常のお雛様が買えてしまう程の金額で軽く100万円は優に超えていきますので、百貨店等扱いたがるのですが陳列される事無く、外商の方々が持って直接お得意様の宅へ行きご案内するお雛様になるますが、まずここまでのお雛様は揃えられず弊社では何本かお選びいただいております。
こうした女雛となると男雛も合わせていきますので・・・
キリッとしたお顔で、二人でバランスが取れるようになっており、きめ細やかで目の切り方や眉やまつ毛の入れ方、髪の毛の生え際等も含め美しいお顔というのがお分かりいただけるかと思いますが、このクラスになりますと髪の毛は髪結師という髪結専門の職人さんが手掛ける様になります。
ちなみに、こちら檜扇や殿の冠といった小道具も「小道具師」という専門の職人さんの手作りで大変高価で、現在では殆ど手に入らなくなってしまいました。
こうなると、最初のお写真のお雛様も一般的に十分高価なお雛様ですが、「同じ高級でも系統が違うな・・・」というのがお分かりになってくるかと思います。
殿のお顔も姫と同様で、良いお顔となると様々な表情を引き出すことができます。
もちろん、殿も姫同様にお着物等に合わせお化粧などを微妙に変化させますので、どことなく上品な若様という感じが漂いますね。
殿は姫ほど大きな変化は見られませんが、殿の存在は姫の存在を引き立て対となりますので、バランスを崩さない様にしていき、殿も実は美しいお顔をしているものなのです。
こちらの殿は美形で上品な正に美男子といったお顔で、お着物に合わせ微妙にお化粧を変えてありますので、お着物(胴柄)やお顔のどちらかが目立ちすぎる事無く整っているのがお分かりになるかと思います。
これは、全てのお雛様に共通する事でバランスです。
こうしたお顔は、角度を変えると凹凸や陰影もしっかりと出て、肌の色と言い艶めかしさがお人形といえどリアルに出ています。
こちらは、弊社では標準的なお顔でご好評いただいておりますが、同じ様にし少し現代風に寄せ同じ気品でも異なる気品が漂います。
系統は変わりますが、おぼこ雛(おぼことは子供のこと)でも同じです。
ふっくらと柔らかく優しい表情で魅せていき。
官女達も同じ様に優しく微笑んでいる様に。
かと思いきや凛々しいお顔で、おぼこだけれども大人びたお顔でキリッと前を見据えています。
この様に、同じ様に見えるお顔であっても、お着物の色柄に合わせ微妙にお化粧の微妙な変化で違いをつけていたりし、確かに流行?からか人気のあるお顔というのはありますが、正直なところ「お顔ばかり良くても・・・」というのが私の考えです。
どのお顔でもきちんとバランスを取り、その良さを引き出してあげる事が出来なければ何の意味もありませんので、例え人気があるお顔、高価なお顔、有名な作家さんのお顔といっても自分のお雛様に響くものがなければ私は使用しません。
それよりも、自分が求めている雛人形像に合うかの方が大事ですので。
木目込み人形も現在では入り目が多くなりましたが、やはり伝統ある木目込人形は昔ながらの職人さんが面相筆を使い一本一本丁寧に書き入れた書き目のお顔が流行廃れも無く、木目込み人形というものをご存知の方は間違いなく選ばれます。
もちろん、同じ書き目のお顔でもお人形の大きさによりお顔の大きさ形等も変わるので雰囲気も異なり、可愛らしいお人形には可愛らしいお顔、気品漂うお人形には気品漂うお顔を使用します。
それは殿も同様で、同じ書き目ですがひとつひとつ表情は異なりますので。
私の大好きな蘭陵王(らんりょうおう)も、もちろん書き目で美しい正絹の衣装に美しく気品漂うお顔で冠を付け・・・
よく、「頭(かしら):○○作」などと名前が書かれているものもありますが、お顔は大きさだけでも何十種類、さらに表情の種類だけでも何十種類、そこから並・極上といったランクや特注等に分かれて何十種類と膨大な数になり、頭師によっても得意な大きさのお顔やバランスの良いお顔というものもありますので、一概にその方のお顔が全て良いという様にはなりませんので注意が必要です。
お顔の大きさによって、よく映えるお顔とそうでないものもあり、これも全て目や鼻、口のバランスですね。
そして、お化粧もハッキリと違いが分かる様なお化粧を施したものもありますが、個人的には言われなければ気付かない様なもので、違和感なくどちらかが主張し過ぎる事のない自然とお着物(胴柄)と合い、相乗効果で気高さや上品さがあり小さく可愛らしくとも品格あるお雛様が好きですね。
そうしたお雛様には、お顔にしてもお着物にしても個々に表情が生まれます。
それらを上手に引き出してあげて、そのお人形の良さを最大限に引き出してあげてお客様にお披露目するのも私の務めでもあり、本来の専門店の仕事です。
こうした事は昔からで大変な事ですが、手塩に掛けたお雛様がいっそう可愛らしく思え、お客様に選ばれた時には娘をお客様の元へ嫁がせる親の様な気持ちになるんですね。
そうした事から、お顔を自由に選べますと言う宣伝文句を聞きますが、お顔がお人形の前に置いてあって「好きなお顔を選べます」と言われても・・・生首を置いてある様で私にはとてもできません。
ご紹介したお顔の様に、良いお顔ほど個性もありどれにでも合うという事はありません。
だからこそ、専門店を掲げているお店であればお客様より物を熟知している訳ですから、プロがしっかりとコーディネートして差し上げるべきというのが私の考えで、昔から人形専門店本来の姿です。
やはり決してお安い物ではなく、縁起物ですから信頼のおけるお店のプロに任せるのが一番間違いがありません。。
そのものの良さをより引き出してあげようとすると、必ずお人形もそれに応えてくれますし、またそうしてあげたいが為に様々な業界で様々な美に触れ、様々な経験をすることでそれらを形できる様になると思い、あちこち出向いてますが・・・まだまだですね。
決して楽な道ではありませんが、私は案外楽しんでいます。
そんな弊社のオリジナル高級つるし飾りは、日本製で専門の作家さんに創っていただくのですが・・・
優しく微笑んでいるんです。
こうした最高の表情をカメラボディーは何、レンズは何、絞りは幾つ、シャッタースピードは幾つでどの角度からと考え写真に収め、お客様にご覧いただく事も好きでして。
「写真の真は真実の真」これはスタジオ時代に師匠に教わった事ですね。
婚礼写真や前撮り写真、記念写真等も数多くこなしてきましたが、必ず表情は変わりますし引き出してあげる事も可能です。
ちょっと変わっている人と思われるかもしれませんが・・・この家業が好きでたまらなく、そんな私が人形の秀月の十七代目です。
十七代目 人形の秀月は皆様のお越しを心よりお待ち申し上げます。
伝えたい日本の心 美しい伝統
人形師 甲冑師 十七代目 人形の秀月